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農業に飛び込んで見えてきたもの

【小林涼子】キレイ事だけじゃない、農業を「続ける」秘訣

スーパーに当たり前のように並ぶ、綺麗で新鮮な野菜や果物。しかし、気候変動や深刻化する生産者不足、高齢化など、日本の農業は多くの課題を抱える。スーパーにこのように並ぶ農作物は、「当たり前」でなくなるかもしれない。

日本の豊かな食卓を守るために、何ができるのか。そんな疑問から行動に移し、AGRIKOを起業して循環型農業に取り組むのが、俳優で住友化学グループ 「Natural Products」のブランドアンバサダーを務める小林涼子氏だ。

体当たりの挑戦のなかから見えてきた、持続可能な農業の在り方とは。農業の持続可能性を目指し、化学農薬とともに天然物由来の農薬開発を進める住友化学株式会社執行役員・アグロ事業部長の井上雅夫氏と語り合った。

「東京には何でもある」は本当か

井上 俳優として小林さんを知る人は多いと思いますが、農家としての側面は知らない人も多いかもしれませんね。

農業に対して、以前から問題意識を持っていたんですか?

小林 いえいえ、正直に言って、そんなに意識が高い方ではありませんでした。

むしろ東京生まれ東京育ちで、都会の価値観のなかで生きていました。「東京って何でもあって、最高!」みたいな(笑)。

小林涼子 俳優 AGRIKO代表取締役 4歳より子役として芸能活動を開始。NHK連続テレビ小説「虎に翼」をはじめ、数々のドラマや映画などへ出演が続いている。俳優業の傍ら2014年より農業に携わり、2021年株式会社AGRIKOを起業。俳優・経営者の二刀流に加え、報道番組への出演やラジオナビゲーターなどパラレルキャリアで活動の幅をさらに広げている。住友化学「Natural Products」アンバサダー。

転機になったのは、20代半ば。俳優業に、ちょっと疲れてしまった時期があったんです。そこで家族に勧められ、新潟県上越市にある父の友人の棚田の稲刈りに参加しました。

最初はどこまでも田んぼが続く風景を見て、「何もないところだなあ」なんて思っていたのを覚えています。ですが次第に、目の前の草が山菜だと気づいたり、自分で収穫したお米の美味しさを知ったり。

東京は、お金を出せばどんな美味しいものでも買えるけど、自分で生産するのは難しい。「もしかしたら、何もないのは東京の方かも」と感じ始めたんです。

さらに2020年にはコロナ禍で物流が止まり、東京に生活必需品が届かないなんてことも起きましたよね。地域や外国に食料を頼る東京に、危うさを覚えたのを覚えています。

井上 おっしゃる通り、特にコロナ禍には食の安定供給の不安が浮き彫りになりましたよね。日本の食を支える大きな課題の一つが、農家の減少や高齢化などだと考えています。

農林水産省によれば、日本の基幹的農業従事者数は、2015年から2023年の間に約35%減少しているとのこと。今後も右肩下がりで減っていくと予想されています。

井上雅夫 住友化学執行役員 アグロ事業部長 1990年住友化学工業株式会社宝塚総合研究所(当時)に入社し農業の製品開発・製剤研究携わる。健康農業関連事業の生産技術、研究企画、海外営業マーケティングを経て、2011年より生活環境事業部開発部長、2014年に米国グループ会社MGK社副社長、2018年に住友化学健康農業関連事業業務室部長、2021年に生活環境事業部・健康農業関連事業業務室担当理事、2024年より現職。

日本の食卓を支え続けるには、農家の皆さんがより働きやすくなる環境を作ったり、農業の生産性を高めてより安定して収入を得られるようにする必要がある。

私たち住友化学としては、そういった農業の持続可能性に貢献できる事業を展開したいと考えています。

小林 農業の人手不足、本当に大きな問題ですよね。

実は私が農業のお手伝いに通っているのは、 家が十数軒しかないような新潟の限界集落です。私たちが手伝いに行かないと、農業の継続が困難なほど切羽詰まった場所で。

このまま人手が足りなくてお米が作れなかったら、この地域はどうなっちゃうんだろう。そんな不安に襲われたのを覚えています。

そこで私も少しでも農業に貢献できないかと新潟の農業と並行して立ち上げたのが、株式会社AGRIKOです。AGRIKOでは農福連携ファームの「AGRIKO FARM」を運営しています。

都内のビルの屋上を活用して「アクアポニックス栽培」という循環型農業を行っていて、ハーブやエディブルフラワー(食用花)をメインに育てています。

AGRIKOが取り組む、水耕栽培と養殖を掛け合わせたアクアポニックスの様子。

アスパラがイモムシで全滅

井上 自分が感じた問題意識から新しい世界に飛び込むなんて、素晴らしい行動力ですよね。

小林 いやあ、でも本当に模索しながらなので、たくさん失敗もしてきましたよ。

たとえばショックだったのは、“アスパラガス事件”です。新潟での農業でアスパラガスを育てているのですが、農薬に頼らずトライしてみたところ、見事に全部イモムシ に食べられてしまったんですよ。

井上 ああ、それは大変でしたね。

小林 ええ。その時はもう、心を鬼にして200匹くらいのイモムシを潰しました。

無農薬の良さはもちろんありつつ、やはり生産者の立場になると、虫とは「やるか、やられるか」の戦い。正しい知識を得る必要性と、化学の力を借りる重要性を感じました。

その反省を活かして、いまはさまざまな農薬を試して自分の農園に合うものを探しています。

実はそのうちの一つとして、住友化学の天然物由来の殺虫剤「ゼンターリ顆粒水和剤」にもお世話になっているんですよ。

これまで当たり前に住友化学の農薬を使ってきましたが、そもそも化学メーカーとして、なぜ農薬事業に注力されているのですか?

井上 ゼンターリを使っていただいているとのこと、嬉しいですね。住友化学には製品が使われる分野に応じて、4つの事業部門があるんです。

私が属しているアグロ&ライフソリューション部門は、「食糧」「健康・衛生」「環境」という3つの軸で社会の持続可能性に貢献する、というビジョンを掲げています。

そのビジョンの実現に向けて私たちは、感染症の蔓延を防止する製品や健康で快適な生活の実現に貢献する家庭用殺虫剤などに加えて、農作物の安定的な供給と食糧増産を通じて世界の人口増加に対応するための農薬や肥料などを製造・販売しています。

住友化学アグロ&ライフソリューション部門のビジョン 食料の増産と持続可能な農業の推進を通じた安心・安全な農作物の提供、人々の健康と安全の保護、生活の質や環境の改善に取り組み、製品群やソリューションの拡大・強化を通じて社会の持続可能性に貢献すること。

そのなかで、住友化学が長年得意としてきた研究開発の力で、いかに農業を地球環境と調和させ、持続可能にできるかを問い続けてきたのが、私たちの農薬事業。

そうした背景から、化学農薬と並んで注力しているのが、微生物や植物などの天然物由来農薬の研究開発です。

小林さんにもお使いいただいている「ゼンターリ顆粒水和剤」もその一つ。弊社はこのような天然物由来の農薬を「Natural Products」というブランドで展開しています。

小林 住友化学のような企業が、先の未来を見据えて事業をしているのはとても心強いですね。

私も勉強中なのですが、天然物由来の農薬を使うことは、農業の持続可能性にどう繋がるのでしょうか?

井上 気候変動をはじめとした環境の変化は、農業にも大きな影響を与えていますよね。

動植物は、環境の変化に敏感に反応します。気温が急に上がったり雨量が増えたりすれば、虫が出る時期や、農作物がかかる病気なども変化する。

小林 そういえば、この2年間は、全国的にとてもカメムシが多かったですね。

井上 そうですよね。そうした変化のなかでも、生産者の方が安定して作物を生産できる環境を作る必要がある。

だからこそ、農薬に関しても多様な打ち手を持っておいた方がいいと考えているんです。

もちろん日本の食を支えるためには化学農薬は絶対に必要。ですが化学農薬だけに頼りすぎるのも、地球環境との調和や持続可能型農業という点では、バランスを欠いてしまうこともあります。

実際に、農林水産省が打ち出した持続可能な食料生産を目指す指針である「みどりの食料システム戦略」でも、このようなことが提示されています。

そこで天然物由来の農薬もうまく組み合わせることで、さまざまな変化に柔軟に対応できるようにする。

「化学農薬vs.天然物由来農薬」のような対立構造ではなく、必要に応じてバランスよく農薬を組み合わせる使い方を提案しているんです。

住友化学の農薬事業 化学農薬・生活環境薬:1950年代から70年以上にわたり化学品の製造・販売を行ってきた経験を活かし、創薬におけるAIの活用や分子レベルでの化合物結合様式の解明に取り組んでいます。バイオラショナル:1960年代に最初の製品を上市して以来、60年の歴史を持ち、現在ではバイオスティミュラントへの本格参入や、世界屈指の農業資材用発酵工場の拡充を進めています。ボタニカル:1902年の創業以来、天然ピレトリンとともに120年の歴史を歩んできました。現在は、精密農業への除虫菊栽培の活用や新規ボタニカル資材の探索に注力しています。これらの取り組みを支える基盤として、グローバルな研究・開発、製造、販売体制を確立しています。また、有機化学の技術基盤を活かし、合成化学、分析化学、化学生物学、環境化学といった幅広い分野での技術力を強化しています。

消費者にできることはたくさんある

小林 私も日々農業に取り組むなかで「これさえ使っていればいい」という正解はないんだと肌で感じています。臨機応変に農薬も組み合わせる考え方は、確かにこれからさらに求められそうですね。

とはいえ天然物由来の農薬の市場は、おそらく化学農薬と比べたらそんなに大きくないですよね。それでも開発に力を入れるのはなぜですか?

井上 おっしゃる通り、海外も含めた市場規模は化学農薬の10分の1ほど。まだ大きな市場規模とは言えません。

ですが長期的な視点で見れば、農業のあり方は転換点に来ていると考えています。世界的に見れば化学肥料を使いすぎて、畑の土壌劣化などを引き起こしている事例もあります。

だからこそ、土壌や生態系を回復・再生させながら作物を生産するリジェネラティブ農業(環境再生型農業)への転換を図らなければ、農業は持続していかないという危機感を持っています。

そうした潮流のなかで、天然物由来の農薬は今後必ず求められてくる分野だと確信しています。

自分たちの得意分野を活かしながら、そうした次の社会の役に立ちたいと考えたときに、天然物由来の製品に注力することは、必然の流れだったのです。

一般的に一つの農薬を開発するまでに、10万点、20万点という候補薬剤のテストをします。そうして初めて、製品として活用できる成分や組み合わせが見つかるんです。

小林 え、そんなにたくさん。想像以上でした。

井上 その過程には、長年の経験と知見が問われます。だからこそ、先手を打って早いうちから研究開発に取り組む必要がある。

住友化学は、1950年代から70年以上農薬の研究開発に取り組んできた歴史があるので、その知見を活かしてこれからのリジェネラティブ農業に貢献したいと考えているのです。

小林 そういうことだったんですね。自分で農業を始めて改めて、先ほどお話のあった土壌 の大切さも 身に沁みています。

一度作物を育てた土で別のものを育てようとすると、全然育たない。「え、ジャガイモこんなに小さいの?!」みたいな(笑)。

消費者側でいた頃は、土にタネを植えたら勝手に育ってくれるものだと思っていましたが、まずは土壌を健康にすることが大前提なんですよね。

井上 ええ、本当に。土は農業の土台ですよね。

小林 今日のお話を聞いて、私たち生産者側も固定観念や常識にとらわれずに、勉強し続けることが大事だなと改めて感じました。

先人の教えももちろん大事。でも気候変動など予想できない変化が起きているからこそ、これまでのやり方が絶対とは限りません。

私もいろいろなやり方を試して、柔軟に対応できる知識や知恵をつけていきたいと思いました。

井上 日本の食文化は本当に豊かで、世界的に見てもすごくレベルが高いですよね。

ですが、もしこのまま農家の減少や高齢化が進んだり環境とのバランスが崩れたりすれば、私たちの食卓や外食の風景は、非常に寂しいものに変わってしまうかもしれません。

そうならないためにも、農業を持続可能にすることは日本のみならず世界にとって、本当に大きな課題です。

それを支えるために、私たちも天然物由来の農薬をはじめとした製品開発はもちろん、多様な支援をしていきたいと考えています。その一つに、 「つなあぐ」 という農家さん向けに役立つ情報サービスも提供しており、今後もサポートの幅を広げていきたいですね。

小林 心強いですね。一方で、消費者側にできることもまだまだあると感じていて。

私がまさにそうでしたが、農業に関わる前は、スーパーでいつでもあらゆる種類の野菜や果物が綺麗な形で手に入るのが当たり前だと思っていました。なんなら「もっと安くならないかな」なんて思っていたり。

でも実際に生産者側に回って、それらの食材がどれだけの労力をかけて作られているかを身をもって知りました。そうすると「形が悪いのがあるのも当たり前だよね」とか「こういう育て方をしているなら、この値段は当然だよね」と思えるようになったんです。

買い物を通して、食べ物の向こう側にある農業の現実に目を向けることもできると思うんです。

そうした一人ひとりのちょっとした気づきや行動が、日本の農業を持続可能なものにして、それが私たちの豊かな食卓を守ることにも繋がっていくのだと思います。

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